特集:b-flower『純真』レビュー


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b-flower の産み落としたこの「純真」という曲について、

しかしなにを書くことが出来るというのだろう。


多くのファンがこの曲に対して様々な思い入れを紡ぎ出している。

その光景を見ると嬉しくなるのは、それなりに(あくまで「それなりに」) b-flower を追い掛けて来た来歴のある人間として当然のことなのだけれど、私はその一方で疚しい気持ちにもなってしまう。私の中を何処まで探っても、こんなにも沢山の言葉は出て来ないからだ。ただ呆然とこの美しい曲を聴いて、口をつぐむしかないのだった。


バンド・サウンドから一転してストリングスの美しい調べから始まるこの曲は、ビートルズがイエスタデイで展開した世界を連想させる(いやイエスタデイにはストリングスなんか入ってないけれど……)。そして、そのイエスタデイを意識したと言われる佐野元春氏のグッドバイからはじめようをも連想させる。手元に歌詞があればもっとハッキリしたことが書けるのだろうけれど、そういうものはない。だから、そんなぼんやりとした印象しか思い当たりそうにない。


君は僕にとっての唯一無二の存在……

You Are The One For Meというこの曲に含まれるフレーズを直訳するとそういうことになるのだろう。こんなにも力強いラヴ・ソングを b-flower は歌うのだ、という…… いやだからどうなんだ、と言われれば答えに詰まってしまうのだけれど、ひょっとしたら凡庸な表現になりかねない(巷にはなんと多くのラヴ・ソングが溢れていることだろう!)この表現がここまで心に響くのは何故なのだろう…… 謎である。その謎を解き明かすべく、私はこの曲を繰り返し聴くしかない。


愛は強くて消えないものだよ…… 八野英史氏がそう歌う時、この歌詞に(今、本当に言葉が出て来ない。だから同じことを繰り返し言ってしまっているな、と我ながらイヤになるのだけれど)説得力が漲っているように感じられるのは何故なのだろう。あまり私の話をするのは控えたいのだけれど、私はあまり異性を愛したことはない。他人を心の底から恋焦がれたことはない。そんな人間なので、本来ならこういう歌は心に響かないはずなのだ。それなのにこの曲の思慕に、私は自分の気持ちをつい重ね合わせてしまう。マジックなのだろう。


b-flower は本当に「次」が読めないな、ということもまた考えたりした。

いや、先にリリースされた四月の恋を聴けば、この路線に行き着くことを予想出来ていたリスナーも居られたのかもしれない。バンド・サウンドを離れて、流麗かつ華麗なストリングスを大々的に導入したダイナミックな音楽へという転換を。しかし私はここまで路線が変貌するとは思っていなかった。それはマクロな目で見ればビーチ・ボーイズがペット・サウンズへとファンを裏切って移行して行く変化を思わせるのだった。


ファンを裏切る…… かなり失礼なことを書いてしまった気がするが、しかしこの大胆な変化を他に表現する如何なる言葉も持ち合わせていない。そもそも b-flower とは、従来の路線(俗に言う「ネオアコ」)を一貫して踏襲するように思われて来たバンドだ。しかし、実を言ってみればアルバムを一枚出すごとにそれまでの b-flower のイメージを覆すように大胆に変化し続けて来たのではなかったか。


誰がWORLD'S END LAUNDRYを聴いて、GROCERY ANDROMEDAを連想出来ただろう? 

そしてその次にCLOCKWISEをリリースすることを?


彼らの歩みはその意味で、マクロに言ってしまえば「ネオアコ」の歴史を踏襲する大人しいもののように映る。だが、さっきも書いたようにそんなに熱心に聴いて来たとはとても胸を張って言えない私のようなリスナーにも感じられるのはそう言った「裏切り」の歴史として b-flower はあるのではないか、ということだったりする。


話が大幅に逸脱してしまったので、「純真」に戻ろう。


実は、またしても失礼の極みなのだけれど今日はブログを更新する気力が湧かないのでサラっとこの曲について言及するだけで止めようと思っていたのだった。この「純真」という曲を聴いて、私の百倍いや千倍は b-flower を愛しているのだろうリスナーの多弁な言葉を読んで、その多弁さにたじろぎ自分にはとてもここまでのことは語れないな……と思い、憚りながら寸評でお茶を濁そうと思っていたのである。だが、実際に書き始めてみると自分の中からこんなにも沢山の(大半は無駄な言葉のような気がするが……)言葉が出て来たことに驚いている。


だけど、やはりというか私のどんな言葉もこの音楽の前では灰燼に帰してしまう。

どうなにを語ったとしても、この音楽を説明した気にはなれないのである。先ほども書いた流麗なストリングスとピアノ、そしてアコースティック・ギターと八野英史氏のヴォーカルによって主に構成されたこの曲は、やはり聴いて貰うしかない。アナログシングル、配信サイトにてのダウンロードまたはApple Music で手軽に聴けるこの曲は、殺伐とした現代において救済のようにも響くのである。大袈裟だろうか。そうかもしれない。そこはまあ、聴いて確かめて貰うしかない。


……やはり言葉が無駄に費やされて終わったような気がするが、今語れるのはそんなところである。



めぼし影星

(はてなブログ"For Nothing"より転載)
発達障害者@禁酒中 40代


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